どうも、麦酒男です。
キリンビールが大々的に売り出している“クラフトビール” SPRING VALLEY 豊潤<496>をいただきました。
パッケージに「クラフトビール」と書かれていますし、宣伝も「クラフトビール」を打ち出して行っていますが、飲んでみると、大手のビールらしく、ある意味で安定のクオリティ、美味しさでした。大手ビールという枠の中で考えれば、フルーティーさも感じられて「豊潤」というのも頷ける印象です。アルコール度数は6%ですが、アルコール感は少ないと思います。
さて、この商品に関しては「クラフトビール」を打ち出しているところが、ある意味でポイントになっています。
争点となるのはクラフトビールの定義?
「クラフトビール」という言葉の定義が日本では無い、と言われています。法的な定義はもちろん無いですし、一部の団体が定義したものもありますが、それが全てかと言うと強制力は無いわけです。ただ、クラフトビール(Craft Beer)という言葉が生まれたアメリカでは、業界団体が定義し、ファンの常識としても浸透している定義があります。意訳ですが、簡単にすると下記のような感じです。
Independent:飲料アルコール業界からブルワリーへの出資率25%未満。
Brewer:販売用の資格を有して、ビールを醸造していること。
(参考:Craft Brewer Definition)
で、まずアメリカで生まれて認識が広がっている言葉に対して、わざわざ日本で異なる定義付けする必要がなぜあるのか、それがわかりません。いろいろな規模や法律、習慣の違いから、その部分を最適化するなら理解ができますが、今回キリンビールが語っているのは…
クラフトビールの定義に明確なものはありませんが、造り手の観点からみると「飲むほどに、造り手のビールへの熱い想い=情熱を感じるビール」でもあるのではないかと思います。
(中略)
一口目のおいしさ、二口目の特別感、三口目の至福感。「これぞクラフトビール」と言える自信作に仕上がりました。(ニュースリリースより)
ということで、アメリカでの定義は無視して、自分たちで言葉を定義しているようです。
クラフトビールを巡るキリンビールの功罪
日本に「クラフトビール」という言葉が広まって10年くらいでしょうか。もう10年、という印象なんですが、10年前に「クラフトビール」という言葉を広めたのはキリンビールだと思っています。キリンビールがグランドキリンをクラフトと宣伝することで、ブームが始まった… そういう意味では、あの時の「キリンのクラフトビール」は必要だったと思うんですが、10年経った今、「クラフトビール」を前面に打ち出して、アメリカでは認められないクラフトビールを売り出す意味がわかりません。
愚民どもに売るための“クラフトビール”
ちょっと話をずらして、今回のSPRING VALLEY 豊潤<496>のプロモーションについて見てみます。インターネットでの展開ですが、ちょっと検索して出てきた記事に以下のようなものがありました。
「本物」で「最高」のおいしさを目指したビール! スプリングバレー豊潤<496> 3/23誕生 − 日経ビジネス電子版 Special(記事広告)
“一切の妥協なし”のキリン渾身のクラフトビール 「スプリングバレー 豊潤<496>」 が新発売。要潤が感動したおいしさの秘密とは? − Pen(記事広告)
俳優・長谷川博己さんもおいしさに感動!思わずこぼれる笑顔やおいしさを実感する声に注目!「SPRING VALLEY 豊潤<496>」新TVCM 放映開始(プレスリリース)
俳優・長谷川博己さんの登場するCMもそうですが、とにかくお金をかけてプロモーションを行っています。キリンビールといえば大企業ですが、その大企業が企業ぐるみで宣伝しているそのビールはクラフトビールじゃないでしょう。
『これぞクラフトビール』ってテレビCMしてますが、テレビでCMできるビールは"クラフトビール"では無く、紛れもない"大手ビール"です。
— 横浜ベイブルーイング 鈴木真也 (@shinyabeer) March 29, 2021
こんなプロモーションをしたら、既存のクラフトビールファンからは猛烈に反発されるのが見えると思うんです。もしくはそっぽを向かれるか…
では、キリンビールの狙いはどこにあるのか? そもそもターゲットが違うんですよね。2021年現在のクラフトビールファンよりも上の世代、テレビなどのマスメディアを信じる世代、層に向けて「クラフトビール(という体験)」を売ろうとしているんじゃないかと思いました。
少し前までの日本では、サントリーのジョッキ生(新ジャンル)が売れていました。ジョッキ生の原材料は「ホップ、コーン、糖類(国内製造)、醸造アルコール、食物繊維、酵母エキス、コーンたんぱく分解物/香料、酸味料、カラメル色素、クエン酸K、甘味料(アセスルファムK)」という、個人的にはトンデモビール風飲料だと思っているんですが、「ジョッキ」で「生」というイメージだけで買う人の多さに驚きました。
一部、異なる人もいるとは思いますが、ジョッキ生と金麦だったり、クリアアサヒを飲み比べてみて、ジョッキ生を選ぶ人は稀じゃないかと思うんですが、売れていた… ジョッキ生を買ってた人たちって、味ではなくイメージを飲んでたんじゃないかと思うんですよね。そう考えると、大河ドラマにも出ている芸能人(グルメというよりは安定感)がCMをしていて、パッケージにもクラフトビールと書かれている商品を選ぶ人が多くいるのもわからなくはないし、そういう人たちにはそうでもしないとビールの多様性が広がらないのかもしれません。
キリンビールの方々はハッキリと否定すると思いますが、僕には 「こうしないとバカには届かないんですよ」という嘆きや諦めにも思えます。シャア・アズナブル的にいえば「重力に魂を縛られている人」を開放するためのアクシズなのかもしれませんし、性善説で語るなら「ならば、今すぐ愚民ども全てに英知を授けてみせろ」と怒られるかも、なんて。パッケージデザインが赤と金なのは、そんな匂わせなのかも…
話がガンダムに引っ張られましたが、大企業であるがゆえに一市民、一消費者のロジックでは語れないのだと思いますが、個人のロジックで語る、伝える、つくるものこそがクラフトビールだとも思うので、今回のキリンビールの“クラフト”に関しては、もっと別のアイデアがあったんじゃないかと思わざるを得ません。
関連リンク
SPRING VALLEY(スプリングバレー)(公式サイト)